映画『ディリリとパリの時間旅行』ー目も想いもパリに浸るー

休みの取れなかったこの夏に、『ディリリとパリの時間旅行』というタイトルの映画は私には十分すぎるほどに魅力的だった。
特に以前『19世紀パリ時間旅行』という展示に行き逃し、泣く泣く図録だけを購入しひたすらに後悔した想いがあったらか、『パリの時間旅行』と聞けばそれは行かないわけにはいかない。

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監督のミッシェルオスロは以前『キリクと魔女』と言う作品で日本でも話題となったので、知っている人も多いだろう。私自身はアニメーション映画はあまり見ないこともあり、恥ずかしながら彼の作品を見るのは初めてだった。
今作の物語を簡単にいえば、2Dのアニメーションに合わせ、監督自身が撮影し集めたパリの風景、また現代的な映像表現をも組み合わせ再現したベルエポックの時代のパリを舞台に、2人の主人公が謎解きの冒険に出かける。
当時のパリの美しさに創造とリアルを交えながら、実在の偉人たちに出会い一緒に歴史を作り出す、なかなかに壮大なパリの冒険物語である。

最近はアニメーションも大人向けのものが世界中で増えてきている。
そしてこの作品も、一見物語の重要性よりも映像美を売りにした、大人のための美しく可愛らしい映画であるかのような顔をしている。(実際に館内にはあまり子供は見当たらなかった)
パリ好き、美術好き、歴史好きには、何度も見たくなるようなパリの景色と登場人物と綺麗なメロディーがたまらない。この映画の入り口はそんな印象であった。
ただ見終わった後に感じた印象は、監督も少し触れていることだが、パリの子供達が1番の観客になるべきものだというものだった。

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 19世紀初めからベルエポックのパリ。
それは信じられないほど重要で魅力的な人々を生み出した時代でもある。
ありえないシチュエーションではあるが、このフィクションの中で彼らを一度に目にすることでそんな当たり前のことに気づかされた。
普段は好きな美術家、歴史家としてそれぞれを眺めていたが、彼らは1つの街で同じ時代を生き、そしてその場所を作り上げてきた人たちなのである。
こんなにも素晴らしい人々が自分たちの街を築いたことに気がつく時、この映画を見たパリの子供達はその誇りを胸に成長できるのである。
なんとも羨ましくも考えさせる教育映画ではないかと思った。
もし日本でもこんなアニメーション映画があるならば、日本人は日本のことを知らないなんて海外から笑われることもないだろう。

 

またこの映画にはアニメーションであるがゆえの強さがもう1つある。
それは差別のない世界というメッセージがストレートに表現されていることである。
人種差別、性差別、労働差別が主軸になって展開される19世紀のちょっとリアルなパリ。
物語はじめの異民族を見せる人間動物園なんかは実話であるし、一歩中心から外れればそこは貧困層の汚れたパリがあったのも事実である。
実写であれば重苦しい場面も、アニメーションだからこその軽やかさで嘘のないリアルをしっかりと捉えている。
そして物語の単純さも海外アニメーションらしくはあるが、メッセージの軸をブラさない。
最近は映画やドラマが終わった後、結末や意味を考えさせたり、投げかけるものをよく見るからか、いけないことはいけないと言い切って終わる潔さはなんだか気持ち良く感じた。
ただその後には未だ解決しない差別という当たり前の問題をずっしりと思い出させる、深さも秘めている。

煌びやかで楽しいことだらけのパリでも、私たち日本人は未だに人種差別を受ける。
カフェではテラス席には座らせてもらえないし、子供に指を刺されて『ジャポネ』と言われたこともある。
日本にいると人種での差別はあまり身近ではなかったせいか、とにかく驚いたことをよく覚えている。
綺麗な顔をしているパリではあるが、未だ差別は考え続けなければいけない大きな問題なのである。
これからを創る今のパリの子供達へのメッセージとして、かなり計画的にこの映画は作られたのかもしれない。

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と、思ったことを書いてしまったがこの映画の見方はいろいろにある。
パリの街並みを堪能するのもいいし、旅気分を味わうのもいい。
物語を読み解いてみたり、歴史を学んだり、オペラ座を舞台にするだけあって音楽もとても心地いい。
私自身も今度は偉人探しに専念しながら、もう一度パリの時間旅行を堪能しようかと思っているところだ。
そしてなににしても、パリというこの魅力的な舞台を旅するのであれば、映画館で見ることをおすすめしたい。

child-film.com  

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