「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」

以前書いたコルビジェ について、また2月に始まる展覧会の時にまた書きたい。と締めていたので、改めて書いてみたいと思う。

現在上野にある西洋美術館で行われている「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」
表題の通りピュリスムを軸に構成された、絵画寄りの展覧会である。
と思ったのはタイトルを聞き、リーフレットを読んでいた時だけで、これはまさに建築と空間を見る展覧会だと思った。

正直なところ私はピュリスムキュビズムも、あの20世紀初めのフランスの芸術運動はあまり好みではない。
中には足を止めるものもあるが、それはただ色彩や構成の好みにフィットしているだけで、絵画として美しく興味深いとはあまり思わない。
(絵を描くことの新しい意味を見出したことはもちろん歴史的に重要なことであるが)
個人的にはコルビジェは、絵画から建築そして絵画へ戻る時の力の抜けた自由な瞬間が好きである。
ピカソマティスの影響もあるにしろ、戦後の作品や裸になって自由に描く壁画は考察と自由のバランスがとてもいい。
せっかく彼の絵が見られるのであればその時代のものがいい。
コルビジェになる前、ジャンヌレだった頃のピュリスム時代を観せる展示か。。と残念に思ったのが入館前の感想である。

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だから最初に展示空間に入った瞬間に驚いた。
展示はコルビジェが設計した19世紀ホールから始まるのだが、そこにはまずピュリスム絵画は全くない。
ただその空間を見ることから始まる。
模型などの展示はあるので私がそう感じただけかもしれないが、周りを見れば誰もがその空間だけに夢中になっていた。

その後はもちろん歴史を辿るように彼がまだジャンヌレだった時代からの説明と絵画が続いていくのだが、それはおまけのような気がした。
コルビジェのつくったこの西洋美術館という空間を観る。私にはそれ以外はなかった。
ただその際に展示されているピュリスムの考えやその根本を元に空間を観ると、コルビジェのその時その時の視野を通して眺めるようで、これが意外と面白い。

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この柱を中心に螺旋を描く

またコルビジェの計画した西洋美術館の構造もうまく作用している。
19世紀ホールから始まる展示室は、時計回りに螺旋を描くように進んでいく。
(これは『無限成長』をする美術館をテーマとしたコルビジェのアイデアだが、増築のごとに外周を増やしていくというところまでは実現しなかった)
今回の展示では一応終わりはあるものの、気がつけばぐるぐると何周もできるような構成になっている。
これもコルビジェの思考の歴史を行ったり来たりするようで、空間の見方を変えてみる手助けになる。

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彼の作ったこの西洋美術館という場所で、彼の展示を観る機会というのはなかなかに贅沢なことである。
それは学ぶ展示というよりも、考え実感する体験的な展示であり、今この場でしか出会うことはできない。
もちろん巡回展なんかをしても全く意味のない展示である。

展示自体は思った以上に混雑していなかったから、ピュリスムというのは日本ではあまり人気はないのかもしれない。(私む含め。。)
または建築というと少し気難しいことのように聞こえる気もする。
ただ今回の展示に関しては何も考えずにとりあえず観に行ってみて欲しい。
こんなにも魅力的で綺麗な空間が日本にあることに感動する。それだけでもいい気がする。
コルビジェが長い間作りたいと思っていた『美術館』という空間は世界で3つしか実現しなかった。
その1つがここ、西洋美術館であり、私たちはいつでも気軽に訪れることができる。
単純な感想ではあるが、その単純なことを思い出させる私にとっては大切な展示になった。

展示は5月19日まで。
lecorbusier2019.jpwww.cojitrip.com