《教会を知る Vol,5》教会から飛び出す気になるもの

西洋を旅していると私たちは必ず教会に出会う。
そしてその外周を何気なく歩きながら高々と聳える姿を見上げたところ、取ってつけたような気になる物体を見つけるのである。
日本では到底出会うことのないその存在は気になってしようがない。ましてや初めて訪れたのならば尚更。
私なんかは見つける度についついカメラを向けてしまう。

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二匹の何かが教会から飛び出している

パリのノートルダムの怪物たちが有名なので、その名を知る人も多いと思うが、これらは『ガーゴイル』と呼ばれている。
ではこのガーゴイルはなんのためにこんな不思議な形をしているのだろうか。

形の答えは簡単で、雨樋である。これは知ってる人も多いだろう。
西洋では古代の頃からこの飛び出した形の雨樋または水を吐き出す彫像というのはよく用いられていた。しかしそれもロマネスクの時代になると一度消えてしまい、改めて現れたのが、ゴシック期の大聖堂が建てられるようになってからであった。

日本の建築ではいまいちピンとこないが、大聖堂の姿を想像してほしい。
あの高々と聳える鋭い傾斜の屋根をつたい雨が滑り落ちる。伝う水は勢いを増し、そして私たち人間に凶器のような鋭さとスピードで降り注いでくるのである。これはなんとしてでも避けたい。
また西洋の教会は石と石を漆喰で固めて作られた建物である。壁をつたいひたすらに染み込んでくる雨水は、雨の多い西洋ではその接着を溶かしてしまう大敵だったのである。

そんなことから一度消えたかと思われた飛び出した雨樋は高さを誇るゴシック建築とともに復活を遂げたのである。

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ヴェネチアにあるガーゴイル。まさに雨樋の形

さて、ではその装飾性には何か意味があるのだろうか。
それぞれの経験で出会った種類は違うと思うが、私が出会った中でもただの半円柱、動物たち、人間、怪物と様々であった。
教会の装飾に関してはその地域性も含むこともあり、未だ謎が多く様々な研究がある中で、実は絶対という正解はない。なので私の中で今しっくりときている装飾の持つ意味を記しておきたいと思う。

ガーゴイルのモチーフを分類すると、以下の三つに分けられる。

  1. 動物
  2. 人間
  3. 幻想動物 

またその中で1の動物でも、善い動物と邪悪な動物に分けることができる。
一番わかりやすいのはこの善い動物と邪悪な動物の違いを知ることである。

善い動物とはライオンまたは犬などを指すのだが、彼らは番犬のような教会を守るものとしての意味を持つ。なので、教会の見張りやお守り的なモチーフということになる。

一方、邪悪な動物とは豚やロバや猿などを指す。彼らは昔からキリスト教ではタブーとされている罪を表す。(人間と表される時には罪人、浮浪者、大食漢、酔っ払い、遊び人などを指す)
なのでその戒めとして警告の意味が一つ。また教会の中に渦巻くその悪行を、水を吐き出すその姿に重ねて吐き出す役割をしているのである。

この二つの違いも知って、ゴシック聖堂の建築家たちはモチーフを選ぶのだが、それもそのうちに意味性よりもより装飾性とアイデアのバランスが勝るようになり、悪いものを吐き出す人間の像(これは口からやお尻からなどと様々)や夜道で見たらゾッとするような幻想怪物が増え始めたのである。
ロマネスクを経て、最高の技術を身につけた建築家たちにとって、聖堂の装飾品は絶好の腕の見せ所となるのだから当然ではあるが、ある意味自由に遊べるアイデア合戦の場ともなったのだ。

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パリのノートルダム大聖堂ガーゴイル。よく見ると奇妙な怪物の姿をしている

また西洋に行ける時には、ふと空を見上げる事を思い出して欲しい。
どんなガーゴイルがそこにはいるのか、どんなつもりでそこにいるのか。
番犬のように使命感を持ったガーゴイルもいれば、自分のようにはなるなと警告するガーゴイルもいる。自分ですら全く意味のわかっていないものもいるのだろう。
ゴシック期の建築家の遊び心のつまったガーゴイルは、私たち日本人にとっても最も気軽に楽しめる教会のモチーフかもしれない。

この話にはまだまだ深堀できる続きがあるのだが、長くなるのでまた違う時にでも。

  

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