ピカソが用意した『洗濯船』での素敵な夕べ

パリ、モンマルトルにある洗濯船。
そこはかつてピカソもアトリエとして使っていた芸術家たちの溜まり場で、美術史では大変重要な場所なのだが、今は火事が原因で現存はしていなく、当時の記録がほんの少し飾ってあるだけである。
ガイドブックやいろいろな本でよく取り上げられてはいるが、観光に行って見ても何もない場所というのが正直な印象だと思う。

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ただ私はここにどうしても夕方の時刻に行ってみたかった。
ある夜にタイムスリップして。

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それはピカソが計画したアンリ・ルソーのための、彼を讃える夜。
若い芸術家や評論家を呼んで全員がルソーのために夜を楽しむ。
賑やかで騒がしくキラキラとした世界に初めてルソーが足を踏み入れた、最初で最後の夜である。

 ルソーといえば35歳頃から税関として働きながら絵を描き始め、日曜画家と呼ばれているように、うまいわけでもない絵を描いていた。どちらかといえば、、いや、どちらともいわなくても下手の部類である。(彼自身はそうは思っていなかったが)
彼は自分の描くものに自信があったし、こだわりも人一倍強かった。
認められることは当然であり、自分はそれに値するべきだと。

いつものように自分のキャンバスを得るために、ルソーの絵をたまたまキャンバスとして購入したのがピカソだった。
普段であれば塗り潰し、自分の絵を重ね描くのだが、それができなかった。
ルソーはまさにピカソの求める子供のような目や描き方、心を持ち続ける、ピカソにとっての天才であったのだ。その時からピカソは亡くなるまで、ルソーの絵を4枚も手元に置き大切にする。

だからピカソはルソーを素敵な夜会に招待した。
周りの誰もがルソーをバカにし、からかっていたとしても(ルソーはそのことには気がついていない)、ピカソだけは真剣であった。
そしてもちろんルソーも。

 2人にとって最高の夜。
尊敬する人と過ごせたピカソと、やっと認められたと納得するルソー。

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その夕刻、片手に杖と片手にヴァイオリンを持ち、洗濯船に向かい歩いたルソーの満足した気分を想像してみると、そこは最高に幸せな美しい景色に見えた。
私もルソーの絵がとても好きだから。

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洗濯船 
75018 Paris
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