好かれ上手なヘルメス

一般的にヘルメスがどれほどの知名度かわからないのだが、美術を勉強してきたものにとっては必ずこのギリシャ神話の神に悩まされた経験があると思う。なんなら私自身彼のせいで美術を学ぶか、諦めようか考えたことがあるくらいだ。
なんか大げさな気もするが、しばらくの間真剣に悩んだことを思い出す。

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まず日本で私たちが彼を目にするのは石膏像の姿である。
画材屋さんではもちろん、よくテレビのセットなどでも見かける。
石膏像ということは当然、彼は美術大学受験のモチーフの一人ということなのだが、本当に頻繁に現れるし、描かずしてその道を先へ進むことはできない。
私は最初にこの石膏像を見たとき、これを描く練習をしなくてはいけないことよりも、美大に行くことを諦めようという気持ちが勝ったのである。彼のこの髪の毛を描くことが全く想像できなかったのだ。(結局はそのうち美術を学びたい気持ちも勝り、描くことになるのだが、。)

彼をデッサンする難しさは髪の毛だけではない。
他の像より複雑な身体の動きは、髪の毛に少し慣れてきた頃の描き手をまた悩ます。
とにかく日本の美術を勉強するものにとって天敵なのである。

そんなヘルメスは実はギリシャの他の神々の中では一番の人気者であった。
生まれたその日に牛を50頭も盗んだ逸話を持つ泥棒の神様なのだが、陽気で人懐っこく、口のうまい(よく嘘もつく)性格もあったのだろう。
また天界と冥界を行き来することもでき、メッセンジャーのような存在でもあった。
そんな彼は誰からも好かれ、いろいろな便利なものを与えられた。

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そのアイテムが今、ヘルメスを古美術の中から探し出す分かりやすいポイントとなっている。
まず彼は羽の生えたサンダルを履いている。
このサンダルを履けば、鷲より早く空を飛ぶことができる。
次にかくれみの布(帽子)。
これをかぶると姿が見えなくなる優れものであった。
そしてケリュケイオンと呼ばれる魔法の杖。
天辺に翼がつき、柄には生きた二匹の蛇が絡みついているのが特徴で、これさえあれば誰でも瞬時に眠らせることができ、起こすこともできた。
この時代に、なんだかまるでドラえもんのようであるが、、これらを見つければそれはきっとヘルメスである。

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当時はあんなに悩まされたヘルメスだが、今は旅先で彼を見つけると嬉しくなる。
心細い旅先で知り合いを見つけたような気持ちだ。
そして実はヘルメスは旅の神様でもあることに気がつく。
彼に出会えればきっとそれは素敵な旅になる。
そんな想いも抱きながら、また次の旅でも私は彼を探してしまうだろう。