黒くされたカラス

 

現代の日本では嫌われ者のカラスだが、そんなカラスにも綺麗な逸話がいくつか存在する。

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都会の中とは違った綺麗な鳥に見える

一番有名なのはノアの箱舟に登場する鴉だと思う。
ノアの大洪水の際、まず最初に放たれたのが鴉であり、吉凶を占うための鳥として希望の擬人像の持物ともなった。

また聖人伝にもよく伝えられる。
鴉が修行する聖人の元に毎日パンを運んでくるという話である。
ローマの時代にキリスト迫害を逃れ、エジプトの砂漠で修行を続ける隠修士パウルスには40年もの間毎日パンを届けていたと伝えられている。
なんとも健気な話である。

この話だけだと今嫌われてることが不思議なのだが、伝えの中に少しだけ予兆が存在する。
色々な話の結末で本来は白であった体を黒に変えられてしまうという罰を受けているのだ。
黒というのは昔から邪悪で闇や夜、光の当たらないものをイメージさせる。
その黒に変えられてしまったのだから嫌われ者の仲間入りになる可能性は高い。

その理由はこうである。
ノアの箱舟では放った鴉はすぐに戻ってこなかった。そこで鳩を飛ばし、鳩は自由の象徴になるのだが、鴉はこの罰として黒くされたと云われがある。
またギリシャ神話ではアポロンに愛するコロニスの不貞を鴉が伝えるのだが、結果自身の子を身ごもっているとも知らずコロニスを射殺してしまう。その密告の代償として純白から黒に変えられたとも云われる。

なんだか大きすぎる代償な気もするが、イヴをたぶらかした蛇が足を取られ一生地を這う罰を与えられたのを考えれば、天を飛び太陽神に結びつきのある鳥でいられたことは、少しはましな気がする。

 

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ルーブル美術館内の庭でパリの空を見上げるカラス。

日本で生活しているとゴミを漁り、人間に追い払われるカラスの姿をよく目にするのだが、ヨーロッパではあまりその姿を目にしない。
それに集団ではなく一人でポツンとしているのをよく見かける。

もしかしたら逸話の多く残る西洋のカラスはその空を見上げながら、何故黒くさせられたのかと想いに耽っているのかもしれない。
なんだかいつものカラスが嘘のような可愛らしい光景である。