ビショーネという宝探し
人が蛇のような生き物に今にも飲み込まれようとしているそんな瞬間を描いたマーク。
言葉にするとなんだか恐ろしいが、きっと多くの人があの有名な車のメーカー『アルファロメオ』のエンブレムとして目にしたことがあるだろう。
このマーク、実はイタリア、ミラノのヴィスコンティ家(ミラノの貴族)の紋章であり、ビショーネ(biscione)と呼ばれ長い間ミラノの人々に親しまれ続けている。
ミラノの街ではちらほら目にするので是非探してみてほしい。
そのシーンを思い浮かべれば何か気味の悪い伝説のようだが、紋章になるのだから伝えるべき立派な出来事なはずである。ただ調べても調べてもそれぞれが違った説を唱えて本当の姿が見えてこない。
以下に現在伝わる説を分かる範囲で上げてみた。
- ヴィスコンティ家の先祖が人喰い蛇を退治した栄光を記したもの
- ヴィスコンティ家の先祖が十字軍遠征の際、倒した相手のイスラム教徒が身につけていた紋章を勝利の証として自分たちのものとした
- ヴィスコンティ初代が大蛇を刻んだ盾でサラセン人(侵略者)を倒し勝利した証
- この蛇はヴィスコンティ・サーペント(毒ヘビの意)と呼ばれ、敵対するサラセン人を飲み込んでいる姿を表す
- 王冠をかぶっている蛇はミラノ人、飲み込まれてる人は十字軍に成敗されたサラセン人を表す
- この蛇はドラゴンを表しており、昔ドラゴンに襲われた子供をヴィスコンティ家の人が助けた姿を表す
- ドラゴンはヴィスコンティ家の先祖の化身であり、サラセン人を飲み込んでいる場面を表す
これだけの謂れがありながら結局どれが本当なのかはわかっていない。(まだまだ他にもありそうだ)
わからないからこそ、人の想像によってどんどんと色々な説が増えているのかもしれない。
ちなみに西洋で蛇はアダムとイブを騙した邪悪な生き物でもあるが、一方で脱皮をして成長を続けることから『再生』の意味合いも持つ。
そのため人を飲み込むのではなく吐き出し再生する場面という考えもある。
信仰の想いによってもその捉え方は大きく変わってくるのである。
結局何を表すのかその本当はわからないのだが、私は何が真実かよりも多くの人が記したそれがどの謂れをイメージして描かれているのか、それを考えられる現状がとても面白いと思う。
例えばこのビショーネ。漫画のようなこの可愛らしい絵柄は何を表すのか。
右の目を見開いている人は今飲み込まれる瞬間に恐怖を感じてるのようにも見えるが、左の目を細めた人物は助けられるその瞬間の安堵の表情のようにもみえる。
ただ統一されないこの感情表現を見ると、もしかしたらこれを描いた人物は、敵の紋章を写し取ることを大切に考えた絵柄として奪い取った説を考えていたのかもしれない。
1つの絵柄からいくらでも想像を巡らせる面白さ、会ったことのもない遠い昔のその人の思想に触れるきっかけにもなるビショーネ。
宝探しの様に、ミラノの街でそれぞれの思想で作られたビショーネを探して歩く。
そんなミラノでの一日も楽しそうであり、いつかやってみたいことの1つである。