ヴェネツィアのサンタルチアに会いに

ヴェネツィアの玄関口、唯一の列車の発着口である駅にはサンタルチアという名前がついている。
本来であれば南イタリアの聖人であるサンタルチア。
なぜ彼女の名前がここヴェネツィア地で使われているのか。

結論は単純で、戦いの戦利品として奪い持ってきた彼女のミイラを今も返すことなくこの地に眠らせているというよくある話なのだが、彼女の今いる場所がなんともスッキリしない。

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サン・ジェレミア教会

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サンタルチアのミイラを間近で見ることができる

初めは現サンタルチア駅のあたりに建っていた教会に彼女は眠らされていた。
しかし駅の建設が決まってからは静かに他の場所へと移され、今はサン・ジェレミア教会という駅から徒歩10分弱あたりのところに彼女はいる。
場所だけを見れば駅のすぐちかく、観光客も多い大きな通り。
ただ彼女がそこにいることを記すものはとても少なく、彼女に会いに来る人も多くはない。そこにいることに気がつかれず、まるで隠しているかのようである。

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実際隠しているのも事実で、シラクサ(元々の彼女のいるべき場所)は彼女の返却の要請を出し続けている。それを受け流し続けるからこそ、後ろめたく公に彼女の存在をアピールできない。
本来であれば街の象徴ともなり得るほどの人気のある聖人だ。それだけでその地を訪れる人もいるほどに。
ただヴェネツィアでは、彼女の存在を示すのは教会前の広場の地面の文字と入り口にかかる小さな肖像画。そして運河に向けたさりげなく建物に刻まれた文字だけである。
観光ブックにすらなかなか載ることはない。

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公にもされずどこか寂しげでひんやりとしたこの場所が、サンタルチアをどこか悲しげに演出しているのだが、私は実は彼女が少し羨ましい。

この地にはヴェネツィア病と言われるほどの誰をも虜にする力がある。
余生も死ぬ時も死んでからもここに永住できたらと、そんな気持ちに取り憑かれてしまうのだ。
彼女は今そんな憧れのヴェネツィアの地に静かに眠る。
それはシラクサへ帰る途中、人々を癒す前の少しのバカンスなのかもしれない、と思えば束の間の素敵な時間にも感じる。
いつかシラクサに戻る時までゆったりと穏やかなヴェネツィアを楽しんでほしいと思う。

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サンタルチアとは
聖ルチアのことで、シチリアシラクサで303年12月13日に殉教した女性の聖人である。 元はシラクサの高貴な家に生まれ、婚約もしている。彼女の人生を変えたのは母の病気の治癒のために訪れたシチリア島カターニアにある聖アガタの墓でのこと。母と同じ病の治癒の奇跡を聞き、また幻の中に聖アガタが現れるのを見る。そして母が癒されること、ルチア自身が殉教することを告げられた。シラクサに戻ると全財産を売り貧しい人のために施したが、それに怒った婚約者からの告発により、捕まり拷問を受けることとなる。
結局どんな拷問でも彼女を動かすことはできず、その場で喉を刺されて殉教した。そのことから喉の病の治癒を叶う聖人とされる。
また彼女のトレードマークであるトレイの上の二つの目は、自ら目を取り出したのちに天使によりまた瞼の中へ戻されたことに由来する。
そのため、失った光もまた取り戻すことができる 希望のシンボルとしても知られている。

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サン・ジェレミア教会
Campo San Geremia, 334, 30121 Venezia VE, イタリア

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